香りの使い方



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No.117 「幻の香り 竜涎香を体験!」 (2010.8.12)

前回、7月号でご紹介した「大哺乳類展」での“本物の”「竜涎香(りゅうぜんこう)」の展示。 早速、私もその香りに会いに出かけてきました。
昨年、エジプト展で体験した「キフィ」という古代エジプトで用いられていた香りを求めていた時も、同じようにどきどきとしていたことを思い出します。
本物(しかも良質)の竜涎香の香りを体験できる機会は、そう滅多にあるものではありません。せつないのは、香りを何かのメディアで記憶することができない。ということです。あぁ、私の鼻と脳は、この香りを皆さまへお伝えできるのでしょうか・・・?

会場には、全長25mものシロナガスクジラの全身複製骨格が公開されるなど、見ごたえのある展示になっています。その中で、ちょうど中間点ほどでしょうか?マッコウクジラVSダイオウイカの深海バトルが再現されているブースの一角に、目指すアンバー(竜涎香)の展示がありました。
まず、アンバーの主な香りの成分である<ノルラブダン・オキサイド(アンブロキサン)>。
次にアンバーのチンキ。
最後に、アンバーの個体そのもの。
以上の3つが展示されており、個体以外は香りを体験できるようになっています。
アンバーの主な香りの成分である<ノルラブダン・オキサイド(アンブロキサン)>は、エレガントで落ちついた、和の香りがします。香りを色でイメージすると、ごくごく薄いパープルといったところでしょうか?
一方、アンバーのチンキになりますともう少し華やかさが加わります。
アルコールを使っているからか、あんず酒や梅酒、あるいは樽で熟成されたブランデー調の香りをベースに、暖かく甘い中にクマリンやトンカビーンズのような鼻にかかる香りがします。
私はお寺の香りと同じ印象を受けましたが、気持ちがほっと落ち着くような、暖かな香り。
いつまでも嗅いでいたかったのですが、次に待つ人がいるのでそうもいきません。
結局、3〜4回並び直して何度も竜涎香の香りを体験してきました。
その隣にあるのが、クジラの体内で作られたアンバーの個体です。
一見すると、黒糖をコーティングした巨大な麩菓子のようです。または、滑らかな溶岩のような形状のもの。大きさは、ヒトの脳より一回り程大きいでしょうか?
こちらは、香りを体験することはできませんが、この形状の物体から良い香りを発見した最初の人は称賛に値するのではないかと思いました。

このほかにも、現在絶滅が危惧されるジュゴンや北極グマなど、海のほ乳類が一堂に会した貴重な展示に、色々と考えさせられる事がありました。
会期は9月26日までありますので、興味のある方はぜひ、訪れてみてください。


「大哺乳類展〜海のなかまたち〜」
7月10日(土)〜9月26日(日)国立科学博物館(東京・上野公園)

◆展示品補足◆「大哺乳類展〜海のなかまたち〜」竜涎香展示パネルより引用
竜涎香(本体):古くから麝香(じゃこう)とならび珍重されてきた貴重な天然香り素材。由来不明で、海岸に漂着したものが良質とされた。18世紀になって、マッコウクジラの腸内に生ずることが確認された。詳細な生成過程は今も不明。中世の王族は身体、衣装の香り付けに用いた。今では入手がほとんどできない幻の香り素材。
学名:Ambergris(アンバーグリス)

チンキ:「竜涎香」をエチルアルコールに溶解させ、数か月から一年間、低温熟成させ得られる。この間にノブラブダン・オキサイド(例えばアンブロキサン)等の主要香気成分が生成される。独特の甘さを伴った香木調の香りと海のような香りも合わせ持つ「アンバーグリス」香を有する。

主要香気成分「ノブラブダン・オキサイド(アンブロキサン)」: 「竜涎香」の主成分のひとつ。主要香気成分のひとつ。現在、精密合成などで作りだすことができる。「竜涎香」などが利用できない現在、香木はじめ化粧品などの香り素材として不可欠なものとなっている。










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